岩波ジュニア新書から出版された鴻上尚史さんの「『空気』を読んでも従わない」を読み終えました。
ジュニア新書ということですが大人にもオススメの本です。
最近は人生相談がネットなどで話題になっている鴻上さん。本職は劇作家で演出家です。
学生時代に鴻上さんの芝居が好きでよく観ていましたが、久しぶりに鴻上さんの言葉に触れたのでその感想をつらつらと書いてみました。
鴻上さんらしいなと思う言葉が並んでいて、周りに合わせることに生き苦しさを感じる人はちょっと勇気をもらえる本だと思います。
「空気」を読んでも従わない
「個性」が大事というけれど,集団の中であまり目立つと浮いてしまう,他人の視線を気にしながら,本当の自分は抑えつけていかないと…….この社会はどうしてこんなに息苦しいのだろう.もっと自分らしく,伸び伸びと生きていきたい! そんな悩みをかかえるアナタにとっておきのアドバイス.「空気」を読んでも従わない生き方のすすめ.
この本は主に中学・高校生向けに書かれたもので、具体例として部活の話などもあげられています。
あるインタビューでは大学でこの本がよく売れているという話が出ていました。
なんとなくその理由がわかる気がします。
中学・高校までは時間割などがあって割と枠組みがカチッとしています。
ところが大学に入ると自分で授業を選んで、部活やサークルも決めて、いろいろな場面で選択を迫られます。
「自分らしさ」という言葉の中でも、周りの空気を読むことを無意識のうちに求められます。
サークルの上下関係やランチタイムのクラスメイトとのやりとり。就活でのみんなと同じ髪型や同じ色のスーツ。
(「年上がえらい」という世間のルールや「同調圧力」の話も本の中で出てきます)
自分の大学時代を振り返ってみると、大学時代は中学・高校の時よりも「世間」が広がっていきました。
それと同時に目に見えない「世間」のルールに苦しくなる場面が多くありました。
「世間」とか「社会」に生き苦しさを感じる理由やその解決策などがこの本では書かれています。
大学生だったあの頃の私がこれを読んだら少しだけ楽になっていたのかもしれません。
心に響いた「スマホの時代に」
本の内容としては、「世間」とは何か「空気」とはどういったものかについて中心に書かれています。
普段感じる生き苦しさの理由を考えていきましょうということが本の大筋ですが、後半部分には生き苦しさを解消するヒントがいくつか紹介されています。
「自尊意識」や「他の弱い『世間』に所属すること」など大人でも共感できる話が出てきますが、その中で私が特に心に響いたのが「スマホの時代に」という章でした。
スマホは不幸なことに、「世間」を「見える化」しました。
スマホはあなたの自意識をどんどん増大させます。
これを読んだときドキッとしました。
何人のフォロワーがいて、「いいね」がいくつついて・・・。そんなことを気にしていた私には耳が痛い言葉だったのです。
本の言葉を借りると「人からどう思われているか」という「空気」を目標にすると、安定せず不安になってしまいます。
スマホとの関係について、『これは、麻薬です』という言葉に思わずうなずいてしまいました。
「正義の言葉」が溢れる時代に
スマホの時代に誰かに否定され、何者にもなれないことを突きつけられる。
そんな中でネットで何かを告発すれば「何者かになった」ような気分になれる。
たしかにネット上には見ず知らずの人を告発する「正義の言葉」が溢れています。
「高校生が飲酒をしていた」
ネットではそんな投稿があっという間に拡散されていきます。
もとをたどれば「何者かになりたい」という思い。
誰かをネット上で告発し続け「何者かになった」気分になっても、幸せになれないでしょう。
本の中でも触れていますが大切なのは他人の評価ではありません。自分軸が揺らぐとずっと苦しいままなのです。
この正義の言葉の話に共感する人は多い気がします。
大人になった私ができること
本の中で1番心に響いたのが下の文章でした。
ネットはあなたにあった小説や映画、演劇を教えてくれます。あなたが見てよかった、読んでよかったと心底思えるものを教えてくれるのです。
「空気」を読んでも従わない 「スマホの時代に」より
このブログでも自分が好きなこと、心動かされたことをたくさん残していきたいと思いながら文章や写真などを掲載しています。
もちろん自分が好きだからやっていることです。でもそれと同時にこのブログが誰かにとってあらたな出会いになればという想いもあります。
かつて20代前半の頃の私は、ネット上でたくさんの素敵な言葉や音楽、風景に出会いました。
旅の楽しさを教えてくれたある本との出会いも、もとをたどればネットがきっかけです。
「大人になった私ができること」なんて偉そうに書きましたが、できるだけ好きなものをネット上には残していきたいし、それが誰かに伝わればいいなと思っているのです。
さいごに
学生時代に鴻上さんの舞台をいくつか観てきました。
芝居の中にはいつも「絶望」と「希望」がつまっていました。
「絶望」なんて言うと大げさに思われるかもしれませんが、日々の生活で打ちのめされることの多かった私は芝居の中の「絶望」に共感して「希望」に救われていました。
今思えばそれは、見えない世間を前に生き苦しさを感じていたからなのかもしれません。
久しぶりに触れた鴻上さんの言葉には昔と変わらず「希望」が溢れていました。
もしもタイムマシンが存在するならばあの頃の私にこの本をそっと手渡したいたいです。
そして伝えたいです。
「あなたは1人で戦っているのではないよ」
あの頃悩んでいた自分へ。そして今悩んでいるあなたへ。
この本が届きますように。